我が家から車で4分ほどの所に、10年ほど前にできた立派で規模が大きな老人ホームがある。ここが建ったときから、家からすぐ近いし、そしてこんな立派なところで仕事をやらせてもらったらいいなあと、ずっと思っていた。今の職場への通り道になるので、見る度にいつも「ここで募集しないかなあ」と。
すると、先週、この老人ホームで「非常勤の事務補助員」という募集を見つけた。仕事内容を見ると、ほぼ受付で簡単な書類作成もあるという。書類作成はエクセルやワードを使うそうで、以前の老人ホームで勤務したときにもそんなことをやったことがあるので、大丈夫だろうと思った。一応、エクセルの資格も持っている。
早速、ダメ元で採用担当者に電話した。「募集するのは女性ですか?」「68歳ですが、大丈夫ですか?」と聴いてみた。まず、この2点を聴かないとダメなのだが、男性でもいいし、高齢者でもいいと言う。現に70歳の人も勤めているという。それと、「定年はあるんですか?」ということも必ず聴くが、これもないということだった。
ということで面談になり、日時を決めてもらって履歴書を持って行って来た。広い施設の奥に4階建ての建物があり、そこの玄関を入ったら驚いた。今まで勤めた老人ホームとは、まったく違う。内装の壁が濃い茶色で、受付もすべてがホテルのロビーの様だった。ロビーには、すごいフカフカの豪華なソファがいくつも置いてあり、小さな売店まである。
ロビーもそうだが、案内された各階の廊下も各部屋も、すべて濃い茶色で統一されていて、まるでホテルだ。総務責任者の40代くらいの女性担当者が、各階の部屋や設備を見せてくれた。以前勤めた老人ホームは、新しく出来たばかりの施設だったが、飾り気のない閑散とした病院のようだった。それから比べると、ここはまるでホテルだ。
案内されている内に、段々と居心地の悪さを感じてきた。「こういうところは、俺には向かんかなあ。俺にはもっと殺伐とした、汚い職場の方が向いてるかもな」と思えてきた。ここの事務所も外から見ただけだがきれいで、いかにも女性が働く職場のように思えた。自分のようにトイレが近くて、頻繁に小便に通ってるジイサンには場違いだ。
考えてみると、今の職場は1人で掃除をやり、1人で管理人室に居て、1人で他の仕事をやる。周りの目があまりないというところが、実はすごくいい。やることさえやれば、休みたければ好きに休んでいいし、時間の制限を気にすることもない。体調が悪ければ、手を抜いてもいいし、うるさく言う上司もいない。年寄りには、いい職場だ。
今回の担当者が、「もっと働きたいようなら、デイサービスの送迎運転手なら、ずっと仕事がありますよ」と言った。ここはデイサービスを大々的にやっていて、他の老人ホームでもよくすすめられることだが、運転手が不足しているのだ。この仕事は、無理かなあと思った。「それでは、上司と相談して決めます」ということで別れたが、おそらくダメだろう。
万が一採用になっても、断ろうかと考えている。今、勤めている職場は、元気ならずっと何歳でも勤めても良いと言われているが、ここに勤めたら、いずれはデイサービスの送迎に回されるような気がする。自分はものすごい方向音痴で、何度行ったところでも、行きも帰りも迷う。今はナビがあるので簡単だと思うかもしれないが、そうでもないようだ。
乗せるのはだいたい同じ人だが、休んだり、新たに来る人がいたりして、道順が頻繁に変わのでその都度、道順を考える。さらに、雪が積もると風景がガラッと変わり、目印にしていた物も見えなくなる。一昨年は、バスの停留所も埋まったくらいだ。冬道は非常に危ないし、人を乗せているからすごく気を使うと、送迎専門の運転手さんに聞いた。
と書いていたら、担当者から電話がかかって来た。上司2人も含めて、再度面接をしたいと言う。やはり、送迎や入居者への食事の配膳係などの仕事はどうか、という話だろう。送迎運転手はやらないで、今の仕事の他にダブルワークで週に1~2日だけ、配膳などの仕事をやらせてもらえないか、ということで交渉しようと思っている。それで断られたら仕方がない。