オジサン NOW

還暦過ぎたオジサンのつぶやき

「海外旅行で、危なかったこと」

20代中頃に、1人で欧米旅行に、1ヶ月半ほど行ったことがある。本当は、海外旅行どころか、国内の旅行もあまり好きではなく、バスや列車にも1人で乗れなかった。それが、失恋をしたことと、仕事のことで悩んでいて、それで会社を辞めて、実家の親父がやっている会社に行くことになった。

負け犬のようで、こんな惨めな気持ちで実家に帰りたくないと思った。だから、本当は海外旅行なんて行きたくなかったけど、なにか自分の一番苦手なことを克服しないとダメだと思って、行くことにした。

結果としては、行ってみて良かったと思ったが、危険なこともたくさんあった。それはすべて、アメリカでのことだった。当時は、アメリカは失業者が多かったようで、治安も悪くて非常に物騒で、ニューヨークの地下鉄では、乗客はみんな壁に張り付いていると言っていた。でないと、線路に突き落とされるということだった。

             

「舗道のビル側を歩くな!」とも言われた。ビルの間に引きずり込まれたら、最低でも10ドル?をすぐ渡せと言われた。でないと拳銃で撃たれるという話も聞いた。英語は全然分からず、行くときに羽田空港の本屋で「ミッキー安川のSOS英語」という本を1冊買って持って行き、使った。従って、英語が分からないので、危ない目にもあった。

ロスアンジェルスだと思ったが、有名な楽器店に行こうと、方向音痴の自分が地図を見て歩いていたときだ。段々とひと気がなくなり、すれ違った米国人らしい若い男性に、地図を見せて楽器店への道を聴いた。案の定、言っていることがサッパリ分からず、ただ「デンジャー」という単語だけ聞き取れた。              

どっかで聴いたことがある単語だなと思ったが、「オーケー!」とか言って、言われた方向に歩いて行った。すると、道を挟んだ左手に灰色のコンクリートの平屋建て住宅らしいのが、ズラッと並んでいた。そして、パトカーが数台停まっていて、数人の警官が各家の中を見て回っているようだった。指笛がピューピューと鳴り響いていた。

後で、向こうで知り合った若い日本人の男性旅行者と話していたら、あそこは南米系の住民の集合住宅で、危険なところだと分かった。警察が、ちょうど立入り検査をしていたから、助かったんだと言われた。警察がいなかったら、危なかったと。ちなみに「デンジャー」は、「危険」という意味だった。「あっちは危険だぞ」と教えてくれたのだ。

            

サンフランシスコの街を歩いてホテルを探していたら、高層ビルが建っているが、人通りのまったくないところに出た。すると向かいから、ラフな格好をした、タチの悪そうなオヤジ連中が4人ほど歩いてきた。1人はごつい体格でサングラスをかけていて、片腕を懐の中に入れていた。これはマズいなあと思いながら、すれ違った。

「あー、助かった!」と思ったら、その男が走って自分を追いかけて来た。これはもうダメだと思ったら、「マネー!マネー!」とか言う。金をくれと。片腕を懐から出して、持っている拳銃を突き付けられると思った。そのとき、自分は髭ボウボウで汚い格好だったので、自分も金に困っているように「ノー・マネー」とか適当に言ったら、「オーケー」とか言って、戻っていった。よく見ると、片腕の人だった。

参ったなあと思って、辺りを見たら、そこら中のビルの間の壁に、やばそうな連中が何人も寄りかかっていた。ゾーッとして走り去りたかったが、追いかけられるようで怖くて、早歩きでその場を去った。

           

安いホテルにしか泊まらなくて、夜、向かいにあったスーパーに食べ物を買いに行った。全面ガラス張りで、外から明るい店の中が丸見えだ。買い物をして帰ろうとしたら、店内の水飲み場か手洗いのところで、ホームレスのような男性が泣きながら水をガブガブ飲んで、自分を見て、なにかくれと言う。一瞬、買ったパンか、少しの金をやろうかと迷っていたら、すぐ店の人が来てどこかに連れて行った。

参ったなと思って外に出た。すると、道路を挟んだ薄暗い向かいのビルの壁に、たくさんのホームレスのような男達が寄りかかって、こちらをジッと見ていた。店内でのやり取りをずっとガラス越しに見ていたのだろう。もし、パンや金なんかホームレスに渡していたらと思うと、ゾッとした。その2日後に、そのビルのすぐ隣りの小さな公園で、刺殺事件があったことを聞いた。

          

そのときは、旅行を始めてから、1ヶ月くらい経っていて、髭は一度も剃らないので、口の周りもあごの周りもボウボウだったのと、格好も上はヨレヨレのシャツで、下は前の会社の作業ズボンだった。「こいつは、金は持ってないな」と思われたのか、同じホームレスと思ったのかもしれない。それが、幸いした。

それ以外にも、テレビで観るような、危険なシーンも近くで色々と見た。アメリカはすごいなあと思った。よく、無事で帰れたもんだ。