オジサン NOW

還暦過ぎたオジサンのつぶやき

「不自由を常と思えば、不足なし」

以前勤めた、マンション管理人の管理会社の、クレーム担当責任者の言葉をもう一つ、今も実践している。それは「入居者に文句を付けられたら、とにかくすべて、我々管理会社のせいにして下さい」ということだ。「私はいいんだけど、管理会社がうるさくて」とか、「これを言わないと(やらないと)、私達が上からひどく怒られるんです」と言って下さいと。

これは実にいい方法で、考えてみたら、確かに当たり前のことで、パートで使われている者が責任をすべて負うことはない。このマンションでも、エントランスからマンション内に入るときのパスワードが分からなくて、管理人室のドアを叩き、どうしたらいいか聴いてくる外部の人が結構いる。

それで、「会う方に電話して、パスワードを聴いてください。私達管理人は分かっているけど、教えたらダメだと上の方からきつく言われているんです。本当は教えたいんですけど、教えると怒られるんです」とか言う。そしたら、ほとんどの人は納得してくれる。

             

例のクレーマーに注意をしに行かされた時も、「自分は、これは悪いとは思わないけど、上の方がダメだと言うので」と言った。実際、そのときはそう思ったし、それでいいんだと割り切った。「すべて、会社のせいにして下さい」だ。「でないと、殴られます」と、クレーム担当者は冗談半分で言っていたが、本当に殴られる。

管理人の襟首をつかみ、担当者に警察を呼ばれて抵抗し、公務執行妨害で数日間、牢屋に入っていた人だ。簡単に注意できるはずがない。しかし、この人、担当者のことを「あいつ、すぐ警察を呼ぶんだよ」と、自分に何度もこぼしたことがある。俺だって、すぐ呼ぶぞー!

前に勤めた不動産会社の現場担当で、70代の元自衛官だった人がいた。一年前に心筋梗塞で倒れたが翌年、職場に復帰したというすごい人だ。重機での除雪や雪庇の除去など、大変な仕事でも愚痴ひとつ言わず、一生懸命働く人だったが、その人がモットーとしている言葉があった。

「不自由を常と思へば、不足なし」だ。それは、徳川家康の遺訓と言われている言葉だ。家康は、幼い頃からずっと人質でいた人だが、その不自由さの中でも、それが普通の生活だと思えば、不自由ではないと言っている。

自分の今の仕事も絶えず色々な問題があるが、「これが、管理人の普通の、当たり前の仕事なんだ」と思うようにしている。何も問題がない仕事などあるわけがないし、「問題があるのが、普通なんだ」と思うようにしている。

       

これは、全てのことに通じると思う。ずっと平穏でなにも問題がない人生もあるかもしれないが、逆にそれはリスクを冒さず、なにもやらなく、波風のない人生でもある。「できれば苦労はしたくない」と思うが、苦労して見えてきた大切なものも、たくさんあるのも確かなことだ。今は、呪文のように「不自由を常と思えば、不足なし」と、何度も何度も心の中で唱えている。

「波風のない仕事や、人生なんてないんだ」と。ただ、自分だって、本当は、老後を安泰に過ごしたかったけど、周りを見ても、それほど安泰といえる人はいないような気もする。金をいくら持っていても、奥さんと上手く行っていなかったり、親しい人も誰もいなく、家にずっと引きこもっている高齢男性も何人も見ている。

世界有数の金持ちの投資家ウォーレン・バフェットが、「何人もの大金持ちを知っているが、彼らが大きなテーブルで、たった1人で食事をしているのを見ると、とても幸せだとは思えない」と言っていた。それでも、自分の周りの金のない連中は「それでも一度、金持ちになってみたいなあ」と言う。確かに、自分もそう思う。