オジサン NOW

還暦過ぎたオジサンのつぶやき

「再び、遠藤周作に」

学生の頃から、遠藤周作の本を愛読している。しかし、そのほとんどは難しいものではなくて「狐狸庵」シリーズのエッセイで、くだけた内容のものばかりだ。これがとにかく、どれも面白くて可笑しく、今までこれほど声を上げて笑った本はない。

いつの間にか、お袋も自分の部屋にあった遠藤周作の本を読んでいたのか、「あの話は可笑しいよね」なんて言って、2人で大笑いしたことがあった。前に何度も書いたが、学生のときに親父と叔父さん達から「せっかく東京に用事で来たのだから、帝国ホテルのバイキングを食べに行こう」と誘われた。

自分は早く着き過ぎて、ロビーと隣の建物を繋ぐ廊下のベンチで、遠藤周作の本を読んで待っていた。少し経ってから、「やあ、お待たせ!」という聞いたことがある男性の声が左側から聞こえ、若い女性が笑って右側に立っていた。顔を上げて男性を見たら、遠藤周作その人だった。自分は、ただ2人が去っていくのを茫然と見ていた。

すぐ後で、その話を父親と叔父にしたら、叔父が「サインをもらっておけば良かったのに!まして、ちょうど遠藤周作の本を読んでいたんだから」と言ったので、そうすりゃ良かったなと、後々まで悔やんだ。でも、あの時、本人をすぐ目の前で見れたという偶然は、なにか不思議な縁があったのか。

          

遠藤周作の難しい本は、40歳を過ぎてからも何冊か読んだが、よく分からなかった。「沈黙」も「深い河」も「海と毒薬」も読んだが、正直、あまり分からなかった。自分の未熟さゆえなのか、難しい本は苦手なのか。それよりも、「狐狸庵」シリーズの本で、人生の色々な大切なことを学んだような気がする。

そして、最近ずっと三谷幸喜の本にハマってずっと読んでいたが、これほど楽しく読めたのは、遠藤周作の「狐狸庵」シリーズ以来だった。三谷幸喜のシリーズ最後の本を読んでいたら、三谷幸喜が遠藤周作のエッセイの大ファンだったと書いてあり、驚きと同時に、感慨深いものがあった。なにかが、繋がっている。

それと、三谷幸喜の本の表紙は和田誠だったが、「狐狸庵」シリーズの表紙も和田誠だったことも、そのとき分かった。あの愛着のある懐かしい表紙が、和田誠だったのだ。そして、和田誠の親友が、自分が好きな横尾忠則だった。これまた、なにかが繋がっている。

下の2つの本の表紙は、どちらも和田誠が書いている。和田誠のイラスト集を最近見たが、素晴らしくて感動した。自分も、こんなイラストが書けたらいいなあと思った。三谷幸喜は、若い頃、大ファンだった和田誠のイラストを模写したそうだ。

三谷幸喜の本をすべて読み終わり、また読むものがなくなって困っていたが、再び昔の「狐狸庵」シリーズを読んでみようと思って、Amazonで探して中古本を買った。若い頃に、ほとんど買って読んでいたので、だいたい内容は覚えているけど、何度読んでも面白い。また、以前と同じように声を出して笑った。

かつて持っていた遠藤周作の本は、すべて処分してしまったので、また同じ本を買い求めている。Amazonで中古本を探して4冊、ブックオフでも3冊買った。改めて読んでみると、読者を惹きつける独特の文章がすごいと感心した。そして、当時は理解できなかったことの意味が、今は分かる。

こんな人は、もう出てこないのだろう。約30年の時を隔てて、また遠藤周作に戻って来た。