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還暦過ぎたオジサンのつぶやき

「村上春樹『小澤征爾さんと、音楽について話をする』」

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これは、すごくいい本だった。以前、キース・リチャーズの自伝を借りたときと同じように、夢中になって読んだ。クラシック音楽は、ほとんど分からないが、その話ばかりでもまったく退屈しないし、逆に深い内容に引き込まれて行った。音楽の話はもちろんだが、一流の音楽家や指揮者の演奏や人間性など、話題が豊富だ。

小澤氏の非常に魅力的な人柄は相変わらずで、どこまでも真っすぐで飾り気がなく、そして愛嬌がある。世界の小澤だけに、言葉に重みがある。かなり昔に、小澤氏の書いた「ボクの音楽武者修行」という本を読んで、ファンになった。そして、数年前にNHKで放送した小澤氏の特集番組で実物の言動を拝見して、さらに大ファンになった。

対談相手の村上春樹氏だが、この人の小説は難解な気がして、自分には合わないと思っていて、人間的にもそんな感じだろうと思っていた。ところが、その想像は少し外れていた。音楽の知識もマニアどころか、もっと音楽を深く掘り下げて理解しているようだった。そうでなければ、小澤氏との対談で事前の準備をしているにしても、これほど中身の濃い対談は出来なかっただろう。

小澤氏も、村上氏のことを「あなたの音楽の聴き方は、すごく深い」と言って、かなり信頼しているのが分かるし、村上氏に巡りあえて良かった、とさえ言っている。小澤氏も、村上氏の深い質問や意見に対して、新たな発見や驚きがあったようで、村上氏は大したものだと感心するばかりだ。やはり毎回、ノーベル文学賞候補になるだけの人なのか。

年上で世界の小澤氏相手だから当然だけど、常に謙虚で敬意をもって話しているので、そのいい雰囲気がこちらにも伝わって来る。かと言って、変にへりくだるわけでもなく、自分の意見を堂々と述べているし、非常に魅力のある人だ。今度、小説は苦手だから、村上氏のエッセイを読んでみよう。

クラシックファンなら、カラヤンとかバーンスタインとか、伝説的な指揮者や音楽家が話の中にたくさん出てくるので、かなり面白いと思う。小澤氏が、彼らに愛されて、身近に接してきた色々なエピソードもある。それにしても、戦後単身でヨーロッパに行ってスクーターで駆けずり回り、巨匠たちに認められ、世界で認められて活躍した、唯一の日本人だ。改めて、スゴイとしか言いようがない。

この本は音楽のことだけではなく、人生や生き方についても色々と考えさせられたが、良書とはそうなのかもしれない。それで、キースリチャーズの本と同様に、早速Amazonで中古本を探して注文した。必ずまた読み返すとは限らないが、気に入った本を集めて書棚に置いておくと、なにか大事な宝物を持っているような、満たされた気持ちになる。子供のようだ。(笑)