家に連れて来た時には小さくて、手のひらに乗る大きさだった。小さな紙の箱に入れて持ち帰ったが、プルプルとずっと震えていた。当初の頃は、夜は泣いてばかりいたので、女房が隣でずっと一緒に寝ていた。「キートン」という名前は、当時、家族みんなで愛読していた浦沢直樹の漫画「マスター・キートン」から頂戴した。これは、家族みんなで決めた。
段々と大きくなって慣れて来ると、その愛らしい姿を見て、家族みんなでいつも笑って癒されていた。短い脚を広げてベタッと床に腹を付けて寝る姿に笑い、また時々ひっくり返って腹を出して寝る姿を見て笑った。ただ、犬を飼うということがよく分からなくて、特に躾をしようとも思わなかったし、そのための勉強もしなかったので、我々家族に牙をむいて怒るわ、かじるわで当初は大変だった。後で分かったが、コーギーは自主性が強くて、初めて飼う犬には適していないという犬種だった。
キートンが小さい時は、かじられてもそれほど痛くはなかったので、素人考えでかじろうとしたら口の中にこぶしを突っ込んで苦しがらせて、かじるのはダメだと分からせようとしたりした。それもあって、段々と噛まなくなったが、牙をむくのはなかなか直らなかった。「ウー」とうなって突然すごい顔になるので、子供達も「変身する」と言って恐れていた。
女房は結構かじられて、その傷跡も残っていた。自分はずっとかじられることがなかったが、キートンが亡くなる数日前に初めてかじられた。ソファに寝ながら、床で寝ているキートンの頭を撫でていたら、突然グワッと人差し指をかじられて血が出た。意識してではなく、本能的にかじったようだ。自分が怒って頭を軽く叩いたら、困った顔をしてトイレの方にトコトコ歩いて行った。女房の時もそうで、怒るとトイレの方の廊下に行ったまま出て来なかった。それで「もういいよ」と言うと、またトコトコと戻ってきた。
家の者が外に出て行くと、とにかく狂ったように吠えた。車でどこかに連れて行っても同じで、誰かが外に出るとひどく吠えた。それと、息子の友達が遊びに来ても、ひどく吠えて皆怖がっていたが、1人だけ「大丈夫です」と言ってキートンに近づいたのがいた。心配して見ていたら、キートンが飛びついてもへっちゃらで、その内、キートンが喜んで遊んでいるので驚いた。
後で聴いたら、数年前にコーギーを飼っていたそうで、それで慣れていたそうだ。怖がる者には吠えてかじるのに、怖がらない者にはこうなのだから不思議だ。我が家でのキートンの順位は、自分が一番で、二番が長男坊、3番が女房で、4番が次男坊だった。長男坊は遊び上手だったので、遊んでやるとすごく喜んだ。次男坊は、かじられるのを恐れて、手で触ることが出来ず、足先でチョイと突く程度だった。