1ヶ月ほどまえだろうか、NHKで矢沢永吉のドキュメンタリーを放映していたのを偶然観た。矢沢永吉の曲は「時間よ止まれ」のシングルレコードを持っているだけで、他の曲はほとんど知らなかったが、シンガーとしては日本の歌い手の中では、シャウトできる数少ない人だと思っていた。歌は上手い。
ただ、どうもあの語り口調が苦手で、人間的にもどうも好きになれず、陰で「エテ吉」と言っていた。すみませんでした。<(_ _)> この番組をサッと観て、他のチャンネルに変えようと思っていたが、永ちゃん(今度から、こう呼ぶ)の生い立ちや、広島から夜汽車に乗って東京に出て来る時のことなど、そしてキャロル誕生の話にすっかり魅入ってしまった。
さらに、永ちゃんは単身でアメリカのスタジオに行って有名なミュージシャンとレコーディングをするが、それもずっと自分一人で通訳なしで片言の英語を駆使して、要望やダメ出しなどの打ち合わせもやっていた。プロデュースもマネージメントも全部一人でやるそうで、レコーディングが終わると小切手を切って演奏した各ミュージシャンにお金を払うことまでやっているのを見て、この人はすごい人だなあと感心した。
という話を職場のHさんに話したら、「そういえば、かつて彼はマネージャーに騙されて、かなりの借金を背負ったんじゃなかったですかね?それで、マネジメントも自分でやるようになったんじゃないですか?」と言うのでそうかもしれないと思ったが、それにしても大したものだ。
英語もそれほど話せないのに、通訳を介すよりも自分の気持ちを伝えやすいし、コミニュケーションも取れるということで、つたない英語でやり取りするのだが、確かにその方が相手とコミニュケーションがとれていたように見えた。何にでも勇気を持ってチャレンジして、飛び込んで行く人だ。
世界では無名の日本のミュージシャンが、憧れの有名ミュージシャンを頼んでレコーディングするというのもかなり勇気がいたようだが、それも段々と続けている内に「このままでは欧米の物真似をしているだけだ。本当の日本人のロックとは何だろうかと悩んだ」と話しているのを聞いて、そこまで考えていたのかと唸ってしまった。
今回、最後のレコーディングということでのぞんだようだが、ベーシストがリーランド・スカラーという、自分が大好きなジェームス・テイラーのバックでずっと演奏していた人だったので驚いた。渋い人を選んだものだ。リーランド・スカラーは、超売れっ子のセッションマンとして、たくさんの有名ミュージシャンのバックで演奏している。
そういえば昔、「矢沢永吉はデビュー当時は生意気で、内田裕也に殴られたことがある」という話を聞いたことがあった。内田裕也が亡くなる少し前に、ある番組でそのことで、「キャロルのデビュー盤のプロデューサーを頼むと言われていたが、いきなり他のプロデューサーになったので、頭に来て殴ってやろうかと思っていた。そしたら、矢沢が会いに来て土下座し、”すべて自分が悪いので、一発殴ってくれませんか”と言ったので、これは参ったと思って殴らなかった。大した奴だと思った」と言っていた。
昔から聴いていた話とかなり違うが、この話だけでも矢沢永吉に対するイメージが変わった。今回のテレビ番組のインタビューを聴いていて、あの口調はまだ少し馴染めなかったが、話していることは非常に心に染みた。やはり、どんな世界でも、ある高みまで到達した人というのは考え方が素晴らしいし、すごい魅力がある。64歳にして、70歳の永ちゃんのファンになった。今度、CDでも借りて聴いてみよう。また、リーランド・スカラーとやっているようだ。7年ぶりの新作らしい。